宝物になる
本校には人間教育というカリキュラムがあり、その中で開祖・脇祖伝という授業があります。「庭野日敬開祖と長沼妙佼脇祖の足跡を辿り、両祖の人柄や思想を学ぶ」といった内容です。その講師として今回は、初代校長である泉田佳子名誉校長先生をお迎えして、お話をいただきました。
ご自宅からのお迎えの車中、授業で開祖さまの紙芝居を行うことをお知りになった泉田先生から
「読み上げの配役は決まったの? 開祖さまについては男性の方がされるといいわね。」
というお言葉が・・・。車中に男性は私一人・・・即決です! まさに予期せぬ出来事でした。運転している緊張に、更なるお役のご指名で、背中にドッと汗が滲みました。
きっとそんな私の心をお察しになられたのでしょう。
「この経験は、いい宝物になるわよ。」
緊張をほぐすように、おだやかな口調でお言葉を添えてくださいました。
さて、1年生全員を目の前に、いよいよ本番です。
登場人物以外では「ナレーション」があり、朗読箇所が一番多いお役ですが、泉田先生が自ら引き受けてくださいました。紙芝居の真後ろに立たれ、私はその直ぐ後ろです。この緊張感。まだ何もしていないのに、口はカラカラ、額は大粒の汗・・・。でも、泉田先生の堂々としたお話しぶりが、その後ろ姿が、私に大きなチカラを与えてくださいました。
「よし! 開祖さまになりきろう!」
今思えば、恐れ多い決意でしたが、自分が果たす役割はそれしかないと思いました。場面によって大きく変わるセリフの内容。それに合わせて声のトーンやスピードを変え、できる限り心を寄せて・・・。いつしかどっぶり物語に入り込んでいる自分がいました。
無事紙芝居が終わり、全員で拍手をしている中、何人かの学生と目が合うと、ウンウンと頷いてくれていました・・・ホッとしました。そしてなぜだか、声優志望の学生の気持ちが少し分かった気がしました(笑)。
普段、書物は一人で黙読することが多いものです。
単に知識を得るだけなら、それで良いのかもしれません。でも今回のように、その言葉の意味を理解し、口にし、心を寄せることで自ら進むべき道であるかのように受けとめられました。
またその実践で、周りにある様々な形の「声」に気づき、
そこから反省したり、勇気を得たりして、新たな自分に出会えるのだと感じました。
「宝物になるわよ。」
まさにその通り、身にしみてありがたい出来事でした。